事業が拡大するにつれ、NPOとしての存在意義や創業期から大事にしていた仲間の存在感はうすれてしまった第二創業期。
くぐり抜けることができた理由はなんですか?
「もう代表はやめたいなと思ったことはあります。
これまでやってきたことは、自分たちで定義した成果につながっていたのか分からなくなることもありました。
代表という立場上、職場の人にはどうしても相談できないこともあります。
精神的に辛い状況は何度かあり、子育てしながら責任のある仕事を全うするって本当に大変だという実感は強くありましたね。『苦しいな』『これでいいのかな』と思い続けるストレスフルな状態で。
ただそれで本当にこの仕事をやめたいか、と言われると実際のところ自分で立ち上げた事業だし、サービスを待っている人もたくさんいる。
何よりこれまで応援してくれた人の顔や言葉を思い出したり、目の前で困っている人の話を聞くと投げ出すわけにはいかないな、という気持ちが勝っていましたね。」
転機は、2013年と2016年に子どもが生まれ、ライフステージが変化したことだった。
「『この先ずっとストレスフルなままでは長くは働けない。自分が違和感を持ちながら事業や組織を拡大することはやめよう』と自然と思うようになりました。」
そこで2012年から毎年開所していたスタジオplus+の開所を一度ストップ。
「自分が今の自分に必要だと思う場所を創ろう!」と、2017年に立ち上げたのが一軒家を再利用した「地域の学び舎プラット」だった。
「実はこの物件との出会いは過去にも1度あり、そのときは『なんか違う』と思って契約することにはならなかったんです。
でもその数年後に2回目の出会いがあって。その時はそこに入った瞬間、この場所に人が集まっているイメージがふっと湧いたんです。
それまでは何か新しい事業を始める時、厳密に収支計算してサービスの対象になる人にヒアリングしてから最低半年~1年かけて事業を始めていました。
でもプラットを始めるときには、そこまで厳密にやらなかったのです。
細かいところまで決めてしまえばしまうほど、他の人が入る余地がなくなってしまう気がしたので。
色んな人が関わって『地域のプラットフォーム』になる場所なら創っていくプロセス自体オープンにして色んな人に参加してもらいたかったんです。
必要な家電や家具やをFacebookで募ったり、プラットの雰囲気にあわない家具は手を上げてくれた方たちとリメイクしたり。
バンを友人に借りて、甲府まで古道具をもらいに行ったり、夫が市川周辺市を回って家具をもらってきたり。資金はクラウドファンディングで集めました。
クラウドファンディングのプロジェクトページ
約1ヶ月で200万円以上が集まった。
2018年には保育園を立ち上げるためにクラウドファンディングを行った。
そんなプロセスを経て『地域の学び舎プラット』は立ち上がりました。
『思いを発信すれば共感してくれる人がいる』ことが、創業期以来、数年ぶりに実感できたことが、自分にとって大きな自信に繋がりました。」
「サービスを提供する側とそれを受ける側」ではない関係性を築けた事業だったんですね。
「そうですね。つくりすぎない。何でも自分たちできると思わない。全部やろうとしない。
社内でも同じです。創業期からいる人事部長と最近話したのですが、職員から『あれがない、これがない』って言われると『じゃあ研修をつくろう。仕組みを作ろう』って思ってしまう。
でも冷静に考えるとそれはおかしい。
研修をつくっても、ただ受講者をつくってるだけ。自分で何も考えなくなってしまう。
もちろん知識として必要なことや、法人の文化や習慣などは研修で伝えます。
でもそれだけじゃ解決できない、その時その時での柔軟な対応や判断にせまられたとき、自分で責任を持って意思決定した経験が実は1番重要だったりする。
困っているときに一緒に考えたり、その人が本当はどうしたいのか聞くことには付き合えるけど、最終的に手を動かして解決するのは本人。
保護者との関係でも『困っていること何でも解決しますよ』というスタンスは違うなと思っています。
全部引き受けるのではなく、他の機関や解決できる保護者を紹介したりすればいい。
そもそも困っていること全部私たちが解決できるわけがない。
解決してあげようと思っている時点でおこがましい。
助けてもらったり、悩んでることを対等に話せる人が、職員や利用者という垣根を超えて仕事を通じてできたらすごいと思うんですよね。
大人になったら価値観や文化を共有できる人って、働く時間以外ではそんな簡単にできないから。
働く意義ってそこにあると思っています。
職員100人、利用者300人くらいいて全員と仲良くなる必要なんてない。その中で1人か2人ぐらい価値観が近くって本音で話せる人がいる。
それがダイバーシティ工房で働くこと。事業をつくる中で大事にしていたことだと私自身改めて気づきました。
次の10年はその文化づくりを働く人、サービスを必要としている人と共に創っていこうと思います。
(2019年7月)
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